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改正民法 (2020年4月1日施行) 詐欺取消し 司法試験・予備試験・司法書士試験

投稿日:2018年10月9日 更新日:

目次

改正民法 詐欺取消し 司法試験、予備試験、司法書士試験 短答択一

今回、2020年4月1日施行の改正民法の詐欺取消しを中心として、短答・択一式問題を作成してみました。

2020年以降に司法試験、予備試験、司法書士試験を受験する予定の方のために、問題を作成しました。

この短答・択一式問題は一部を除いて、ほとんどが旧民法の知識で解答することができます。

正解は参考文献の下に記載してあります。

 

 

 

問 題

AがBとの間で、A所有の甲土地を売り渡す契約を締結したという事例に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

 

ア Aが第三者Xの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した場合、Bが第三者Xの詐欺の事実を知らなければ、たとえその事実をBにおいて知ることができたとしても、Aは売買契約の意思表示を取り消すことができない。

 

イ Aが第三者Xの強迫により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した場合、Bが第三者Xの強迫の事実を知らず、かつその事実をBにおいて知ることができなかったとしても、Aは売買契約の意思表示を取り消すことができる。

 

ウ AがBの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した後、AはBの詐欺に気付いたが、売買契約の意思表示を取り消す前にAが死亡した。この場合、Aの最期を看取ったAの唯一の相続人であるYは、売買契約の意思表示の表意者ではないので、たとえAが詐欺の事実に気付いてから5年を経過する前であり、かつ売買契約締結の日から20年を経過する前であっても、YはBによる詐欺を理由に売買契約の意思表示を取り消すことができない。

 

エ AがBの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結したうえBに甲の所有権移転登記を行ったところ、その詐欺事実につき善意でかつ過失のないCとの間でBがさらに甲を売り渡す契約を締結した。その後、AはBの詐欺を理由に売買契約の意思表示を取り消したが、そのときCは甲の所有権移転登記を具備していなかった。この場合、Cは甲の所有権移転登記を具備していなかったので、Aは売買契約の詐欺による意思表示の取消しをCに対抗できる。

 

オ AがBの強迫により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した後、その強迫事実につき善意でかつ過失がないCとの間でBがさらに甲を売り渡す契約を締結した。その後、AはBの強迫を理由に売買契約の意思表示を取り消した。この場合、Aは売買契約の意思表示の取消しをCに対抗できる。

1 0個    2 1個    3 2個   4 3個   5 4個

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解 説

 

 

 

ア  誤り

以下、正しい肢に書き換えます。

ア Aが第三者Xの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した場合、Bが第三者Xの詐欺の事実を知らなければ、くとも、たとえその事実をBにおいて知ることができたとしても、ときは、Aは売買契約の意思表示を取り消すことができない。できる。

すなわち、

 Aが第三者Xの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した場合、Bが第三者Xの詐欺の事実を知らなくとも、その事実をBにおいて知ることができたときは、Aは売買契約の意思表示を取り消すことができる。

 

旧民法は、96条2項において、「相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。」と規定していたが、改正民法は、相手方において知ることができたときも相手方の信頼は保護に値しないとして、詐欺による意思表示の取消しを認めることにした。

 

改正民法(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

旧民法(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

 

 

イ 正しい

 Aが第三者Xの強迫により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した場合、Bが第三者Xの強迫の事実を知らず、かつその事実をBにおいて知ることができなかったとしても、Aは売買契約の意思表示を取り消すことができる。

 

改正民法96条2項の反対解釈により、強迫の場合については詐欺と異なり、たとえ相手方が第三者強迫の事実を知らず、かつ知ることができなかったとしても、表意者は強迫を理由にその意思表示を取り消すことができる。

 

 

ウ  誤り

以下、正しい肢に書き換えます。

ウ AがBの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した後、AはBの詐欺に気付いたが、売買契約の意思表示を取り消す前にAが死亡した。
この場合、Aの最期を看取ったAの唯一の相続人であるYは、売買契約の意思表示の表意者ではないので、ないが、たとえAが詐欺の事実に気付いてから5年を経過する前であり、かつ売買契約締結の日から20年を経過する前であっても、あるので、YはBによる詐欺を理由に売買契約の意思表示を取り消すことができない。できる。

すなわち、

 AがBの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した後、AはBの詐欺に気付いたが、売買契約の意思表示を取り消す前にAが死亡した。
この場合、Aの最期を看取ったAの唯一の相続人であるYは、売買契約の意思表示の表意者ではないが、Aが詐欺の事実に気付いてから5年を経過する前であり、かつ売買契約締結の日から20年を経過する前であるので、YはBによる詐欺を理由に売買契約の意思表示を取り消すことができる。

 

改正民法においても、旧民法においても、詐欺・強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者の承継人が、取り消すことができると規定されています。

YはAの相続人であり、瑕疵ある意思表示をした者の承継人(民法896条)でありますら、詐欺による意思表示を取り消すことができます。

 

改正民法 (取消権者)
第百二十条 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者も含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
2 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、 ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

 

旧民法(取消権者)
第百二十条 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、 ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

 

(取消権の期間の制限)
第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

 

 

エ  誤り 

以下、正しい肢に書き換えます。

エ AがBの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結したうえBに甲の所有権移転登記を行ったところ、その詐欺事実につき善意でかつ過失のないCとの間でBがさらに甲を売り渡す契約を締結した。その後、AはBの詐欺を理由に売買契約の意思表示を取り消したが、そのときCは甲の所有権移転登記を具備していなかった。この場合、Cが甲の所有権移転登記を具備していなかったので、いなくとも、Aは売買契約の詐欺による意思表示の取消しをCに対抗できる。できない。

すなわち

 AがBの詐欺により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結したうえBに甲の所有権移転登記を行ったところ、その詐欺事実につき善意でかつ過失のないCとの間でBがさらに甲を売り渡す契約を締結した。
その後、AはBの詐欺を理由に売買契約の意思表示を取り消したが、そのときCは甲の所有権移転登記を具備していなかった。
この場合、Cが甲の所有権移転登記を具備していなくとも、Aは売買契約の詐欺による意思表示の取消しをCに対抗できない。

 

改正民法96条3項における、詐欺を理由とする表意者の意思表示の取消しから保護されるべき第三者とは、取消しの遡及的無効から保護されるべき第三者であり、取消し前の第三者」を意味する。

そして、同項の保護されるべき第三者としては、条文の文言上、善意のみならず過失のないことまで求められている。

しかし、第三者は対抗要件は勿論のこと(ACは前主、後主の関係にあり対抗関係なし)、権利保護要件としての登記具備も求められていない(通説)。

したがって、Cが甲の所有権移転登記を具備していなくとも、結論は変わらず、Aは売買契約の意思表示取消しを、詐欺事実につき善意でかつ過失がないCに対抗できない。

以上から、Aは売買契約の意思表示取消しを、詐欺事実につき善意でかつ過失がない、取消し前の第三者Cに対抗できない。

 

 

オ  正しい 

 AがBの強迫により、Bとの間でA所有の甲土地を売り渡す契約を締結した後、その強迫事実につき善意でかつ過失がないCとの間でBがさらに甲を売り渡す契約を締結した。
その後、AはBの強迫を理由に売買契約の意思表示を取り消した。
この場合、Aは売買契約の意思表示の取消しをCに対抗できる。

 

改正民法96条3項は、「前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」として、「強迫による意思表示の取消し」に同項の適用がない旨を規定している。

したがって、たとえ強迫事実につき善意でかつ過失がないCに対しても、Aは強迫による意思表示の取消しを対抗することができる。

 

 

[参考文献]

有斐閣Sシリーズ 民法Ⅰー総則[第4版] 山田卓生 河内宏 安永正昭 松久三四彦 著
一問一答シリーズ 一問一答 民法(債権関係)改正 筒井健夫 村松秀樹 編著 商事法務
民法総則 平野裕之 著  日本評論社
など

正解は、ア・ウ・エの3個の肢が誤りで、4となります。

以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。                               以  上

 

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