譲渡制限特約の付された債権の譲渡
投稿日:2020年6月2日 更新日:
改正民法で択一問題を作成しました。譲渡制限特約の付された債権譲渡に関する問題です。供託に関して、そこまで出題するのかという気もしますが、一応、民法の枠で出題してみました。
[ 問 題 ]
「令和2年7月1日付け住宅増改築工事請負契約の請負人Aが、注文者Bに対して有する譲渡制限特約の付された請負代金債権を、同年10月15日、Aの債権者Cに譲渡し、その旨を同月20日、Bに通知した。増改築工事は同年11月1日に完成し、同日、Bに住宅が引き渡された。
増改築工事には水道配管に漏水があり、Bは住宅が引き渡された後同年12月5日、これを発見し、同日、相当の期間を定めてAに対して修補請求を行ったが、相当期間の末日である同月19日経過後においてもAがこれに応じなかった。なお、水道配管の瑕疵があっても増改築工事の引渡しを可能とする工事の完了は認められるものとする。」
という事案に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし、正しいものはいくつあるか。
ア 譲渡制限特約が付されている請負代金債権の譲受人Cが、当該請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったが、知らなかったことについて重大な過失がある場合、当該債権譲渡は効力を有さない。
イ 請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったことについて、重大な過失のある譲受人Cが、相当な期間を定めてBに対して、Aに弁済をするよう催告したにもかかわらず、Bがその期間内に弁済しなかった場合、CはBに対して請負代金を直接自己に支払うよう請求することができる。
ウ 請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったことについて、重大な過失のある譲受人Cが、相当の期間を定めて注文者Bに対して、請負人Aに弁済をするよう催告したところ、注文者Bが請負代金債権を供託した。この場合、当該請負代金債権の供託金還付請求権を有するのは、請負人Aである。
エ 請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったことについて、重大な過失のある譲受人Cが、相当の期間を定めて注文者Bに対して、請負人Aに弁済をするよう催告したところ、注文者Bが請負代金債権を供託した。この場合、注文者Bは供託の通知を遅滞なくしなければならないが、通知の相手方は、Cであり、Aではない。
オ 請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったことについて、重大な過失のある譲受人Cが、令和2年11月6日、相当の期間を定めて注文者Bに対して、請負人Aに弁済をするよう催告し、その期間の末日である同月20日が経過したところ、注文者Bは請負人Aに対して、令和2年12月20日、水道配管の瑕疵修補請求に代わる損害賠償請求を行い、同日、譲受人Cによる請負代金請求に対して、損害賠償金と請負代金との対当額での相殺の意思表示を行った。かかるBのCに対する相殺の対抗は認められる。
1 0個 2 1個 3 2個 4 3個 5 4個
[解説]
ア 誤り
民法改正により債権譲渡制限特約については物権的効力がなくなった。譲受人の主観面にかかわらず、譲渡制限特約が付された債権の譲渡は有効である。(新民法第466条2項)
したがって、譲渡制限特約が付されている指名債権の譲受人が、当該指名債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったが、知らなかったことについて重大な過失がある場合でも、当該譲渡は効力を有する。
イ 正しい
譲渡制限特約が付されたことについて、悪意・重過失ある譲受人に対しては、債務者は履行請求を拒絶できる。(新民法第466条3項)
しかし、債務者が債務を履行しない場合において、債権譲受人が相当の期間を定めて、譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときには、その債務者については債務の履行を拒むことはできない。(新民法第466条4項)
したがって、請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったことについて、重大な過失のある譲受人Cが、相当な期間を定めて注文者Bに対して、請負人Aに弁済をするよう催告したにもかかわらず、その期間内にBが弁済しなかった場合、CはBに対して請負代金を直接自己に支払うよう請求できる。
なお、この場合に債務者は、譲受人に債務を支払っても、供託してもどちらでもよい。
ウ 誤り
譲渡制限特約の付された債権の供託金還付請求権を有するのは、債権譲渡人ではなく、債権譲受人である。(新民法第466条の2第3項)
したがって、請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったことについて、重大な過失のある譲受人Cが、相当の期間を定めて注文者Bに対して、請負人Aに弁済をするよう催告したところ、注文者Bが請負代金債権を供託した場合、当該請負代金債権の供託金還付請求権を有するのは、債権譲受人Cであって債権譲渡人Aではない。
エ 誤り
供託の通知は、債権譲渡人及び債権譲受人の両者に対して行わなければならない。
したがって、請負代金債権に譲渡制限特約が付されていることを知らなかったことについて、重大な過失のある譲受人Cが、相当の期間を定めて注文者Bに対して、請負人Aに弁済をするよう催告したところ、注文者Bが請負代金債権を供託した。この場合、注文者Bは供託の通知を遅滞なくしなければならないが、通知の相手方は、債権譲受人C及び債権譲渡人Aの両者である。
供託通知の相手方は、債権譲受人Cのみだけではなく、債権譲渡人Aも含まれる。
(新民法第466条2項)
オ 正しい
注文者Bの請負人Aに対する損害賠償請求権は、債権譲渡の債務者に対する権利行使要件具備後に発生したものである。債務者に対する権利行使要件具備後に取得した債権による相殺は、本来認められない。(新民法第469条1項)
しかし、債務者に対する権利行使要件具備時より後に債務者が取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が譲受人の取得した債権の発生原因*である契約に基づいて生じた債権であるときは、債務者は権利行使要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であってもこれによる相殺をもって譲受人に対抗することができる。(新民法第469条2項1号)
本事案においては、譲渡制限特約について重過失の譲受人が譲渡人に弁済するよう債務者に催告して相当期間経過後に、債務者が修補に代わる損害賠償請求権を取得している。
したがって、譲受人の債務者に対する権利行使要件具備後に債務者が譲渡人に対して取得した債権を自働債権とする相殺は、譲受人に対抗できないはずである。
しかし、自働債権が債権譲受人の取得した債権の発生原因*である契約(請負契約)に基づいて生じた債権(修補に代わる損害賠償請求)であるときは、権利行使要件具備時(令和2年11月21日)より後(令和2年12月20日)に債務者が取得した譲渡人に対する債権であっても、これによる相殺をもって債務者は譲受人に対抗することができる。(新民法第469条2項1号)
*新民法第469条2項1号の「対抗要件具備時よりも前の原因に基づいて生じた債権」にいう「原因」には「契約」が含まれる。
*本事案は将来債権の譲渡ではないので、新民法第469条2項2号の適用ではなく、新民法第469条2項1号の適用の問題とした。
なお、増改築工事の瑕疵修補に代わる損害賠償債権が、引渡と同時(令和2年11月1日)に発生するものだとすれば、本件においても譲受人の対債務者権利行使要件具備時(令和2年11月21日)よりも前(令和2年11月1日)に債務者が取得した債権ということができ、この考え方に立てば、債務者が譲渡人に対して取得した債権をもって、当然に、債務者は譲受人に相殺を対抗することができる。(新民法第468条2項)
以上から、注文者Bは債権譲受人Cに対して相殺を対抗できる。
正しい肢は、肢イ・肢オの2個である。
正解は、3である。
[参考文献]
新標準講義 債権総論 池田真朗 著 慶應義塾大学出版会
新標準講義 債権各論 池田真朗 著 慶應義塾大学出版会
債権法 債権総論・契約 中舎寛樹 著 日本評論社
民法Ⅲ[第4版]債権総論・担保物件 内田貴 著 東京大学出版会
一問一答 民法(債権関係)改正 筒井健夫・村松秀樹 著 商事法務
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執筆者:略して鬼トラ
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