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民法 択一推論  不法行為に基づく財産的損害賠償請求権(逸失利益)の相続

投稿日:2017年4月24日 更新日:

不法行為に基づく生命侵害の[財産的損害賠償請求権(逸失利益)]の相続

 

民法の推論問題を作成しました。よろしかったら解いてみてください。

 

 

[問 題]

 

不法行為により死亡した被害者の「財産的損害賠償請求権(逸失利益)」が相続の対象となるか否かについて,相続を肯定する説と相続を否定する説がある。

 

次のアからクまでの記述の「この説」は,上記いずれの説にあたるか。

 

ア この説は,生命侵害は身体傷害の極限概念であるとする。

 

イ この説は,生命侵害による損害賠償について権利帰属主体がいないと他説を批判する。

 

ウ この説は,いわゆる「笑う相続人」については相続一般に内在する問題であり,この説特有の問題ではないとする。

 

エ この説に対しては,生命侵害の場合と身体傷害の場合とでは,均衡を失しているとの批判がある。

 

オ この説に対しては,親がその平均寿命を超えた時点以降の子の将来にわたる逸失利益までも相続するのは,不合理であるとの批判がある。

 

カ この説は,遺族(近親者)の固有の損害の賠償請求を認めれば,損害賠償請求権の相続が認められる受傷後死亡の場合の身体傷害との間で不均衡は生じないと反論する。

 

キ この説に対しては,賠償額が低くなってしまうとの批判がある。

 

ク この説は,賠償額の計算基準に客観性があると主張する。

 

 

 

 

 

 

[解 答]

ア 肯定説は,生命侵害は身体傷害の極限概念であるとする。

肯定説は,死亡という生命侵害は身体障害の極限概念であるとして,いったん被相続人に損害賠償請求権が発生し,これを相続人が相続すると主張する(極限概念説)。

 

 

イ 否定説は,生命侵害による損害賠償について権利帰属主体がいないと肯定説を批判する。

 

人は,その死亡(即死)により権利能力を失うのだから,被害者は生命侵害による損害賠償について権利帰属主体となりえない。よって,被相続人が有していない損害賠償請求権を相続人が相続することもない。

 

これに対して肯定説のうち時間的間隔説は,即死の場合においても受傷から死亡に至るまで,なお時間的間隔を観念できるものとし,傷害の瞬間に被相続人が損害賠償請求権を取得し,これを相続人が相続すると主張する(時間的間隔説)。

 

 

ウ 肯定説は,いわゆる「笑う相続人」については相続一般に内在する問題であり,この説特有の問題ではないとする。

 

否定説は,普段は疎遠な親族が被害者の損害賠償請求権を取得するのは不合理であるとして,肯定説を批判する。いわゆる「笑う相続人」とは,普段は疎遠な親族のことを指す。

 

これに対して肯定説は,いわゆる「笑う相続人」については相続一般に内在する問題であり,この説特有の問題ではないと反論する。

 

また,相続肯定説に対しては,本来保護を必要とする内縁の配偶者などが保護されないとの批判がありますが,これについても相続一般に内在する問題であり,相続肯定説特有の問題ではないと反論します。

 

すなわち,これは損害賠償請求権を対象とした相続に限ったことではなく,その他の財産相続にも起こり得る問題であると肯定説は反論します。
このことは「笑う相続人」の問題についても同様に言える肯定説からの反論です。

 

エ 否定説に対しては,生命侵害の場合と身体傷害の場合とでは,均衡を失しているとの批判がある。

 

否定説は,一方において重傷後その負傷が原因で死亡した場合に身体傷害による損害賠償請求権の相続を認めるが,他方で生命侵害の場合の加害行為は損害賠償請求権の対象とはせず,これによる損害賠償請求権の相続を認めない。

 

これでは生命侵害のほうが身体傷害の場合よりも被害者に対する加害行為,権利侵害の程度,態様としては重大であるにもかわらず,均衡を失していると肯定説は否定説を批判します。

 

オ 肯定説に対しては,親がその平均寿命を超えた時点以降の子の将来にわたる逸失利益までも相続するのは,不合理であるとの批判がある。

 

相続を肯定した場合,論理的には以下のことが起こりえます。

 

例えば,3歳の養子が死亡し,養子死亡時70歳の養父が,この亡くなった養子を相続したと仮定します。

 

論理上はその子が18歳ころに就職したとして67歳になるまでの逸失利益(収入分)の損害賠償請求権を亡くなった子が取得し,これを養父が相続することが可能となります。

 

本来先に亡くなるはずの養親がその平均寿命を超えて,後に亡くなるはずであった養子の将来的な逸失利益(収入分)まで損害賠償請求権として相続してしまうことになります。

 

これでは不合理であると否定説は肯定説を批判します。
いわゆる「逆相続」の問題です。

 

カ 否定説は,遺族(近親者)の固有の損害の賠償請求を認めれば,損害賠償請求権の相続が認められる受傷後死亡の場合の身体傷害との間で不均衡は生じないと反論する。

 

否定説は,被害者から扶養を受ける利益の侵害についての損害賠償請求権を遺族(近親者)が固有に取得するので,生命侵害の場合の相続を否定しても,受傷後死亡の間の身体傷害による損害賠償請求権の相続を認めることとの間に不均衡は生じないと反論します。(扶養侵害説)

 

キ 否定説に対しては,賠償額が低くなってしまうとの批判がある。

 

扶養を受ける利益の侵害といっても,扶養の期待権侵害に対する裁判上認められる損害賠償額は低く抑えられがちなので,やはり否定説では賠償額が低くなってしまうとの批判があります。

 

ク 肯定説は,賠償額の計算基準に客観性があると主張する。

 

否定説では,扶養を受ける利益の侵害にかかる損害賠償額の計算が複雑化します。
肯定説は,賠償額の計算基準に客観性があり,簡易明確であると主張します。

 

以上の記述の正誤については,是非ご自身の基本書等によりご検証ご確認ください。

 

 

[参考文献] 債権各論Ⅱ不法行為法 潮見佳男 著 新世社
親族法相続法講義案 裁判所職員総合研修所監修 司法協会
など

 

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