予備的 相殺の抗弁について(訴訟上の相殺) – 司法試験-司法書士試験-行政書士試験とエトセトラBLOG

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予備的 相殺の抗弁について(訴訟上の相殺)

投稿日:2017年3月30日 更新日:

 

 

相殺の抗弁については,特別研修受講生の中でも誤解が多いのではないでしょうか。
例えば,貸金返還請求訴訟の原告の請求に対して,被告が抗弁として,弁済の抗弁と消滅時効の抗弁を主張したとします。

 

この場合,裁判所がいずれの抗弁を先に判断するか,その順序は,裁判所の自由裁量です。

 

消滅時効の抗弁を先に判断して,請求を棄却しようが,弁済の抗弁を先に判断して,請求を棄却しようが,裁判所の判断は,自由裁量です。そして,弁済の抗弁を先に判断し,弁済が立証されておれば,消滅時効の抗弁については,裁判所はこれを判断せずに,弁済の抗弁のみを認めて原告の請求を棄却します。逆に,消滅時効の抗弁を先に判断し,消滅時効が立証されておれば,弁済の抗弁については,裁判所はこれを一切判断せずに,消滅時効の抗弁のみを認めて,原告の請求を棄却します。

 

この場合,仮に被告が,弁済の抗弁から先に判断してくれ,弁済の抗弁が認められなかったら,次に消滅時効の抗弁を判断してくれと,抗弁の判断順序を裁判所に対して主張したとしても,裁判所は,この被告の主張に拘束されません。裁判所は,被告の主張にも拘わらず,消滅時効の抗弁を先に判断して,消滅時効の抗弁が認められれば,そのまま,弁済の抗弁は一切判断せずに,原告の請求を棄却してもいいのです。

 

逆に被告が,消滅時効の抗弁から先に判断してくれ,消滅時効の抗弁が認められなかったら,次に弁済の抗弁を判断してくれと,抗弁の判断順序を裁判所に対して主張しても,裁判所は,この被告の主張に拘束されません。裁判所は,被告の主張にも拘わらず,弁済の抗弁を先に判断して,弁済の抗弁が認められれば,そのまま,消滅時効の抗弁は一切判断せずに,原告の請求を棄却してもいいのです。

 

それは,なぜでしょう?

 

被告としてみれば,いずれの抗弁によっても,請求が棄却されさえすれば,それで目的は達成され支障はないのですし,また,裁判所としても,審理の判断に柔軟性をもたせ,審理の錯綜,審理の硬直化を避け,審理の迅速化によって有限な司法資源の有効活用を図ることができるからです。

 

それでは,今度は,貸金返還請求訴訟の原告の請求に対して,被告が抗弁として,弁済の抗弁と消滅時効の抗弁,さらには相殺の抗弁まで主張した場合はどうでしょうか?

(*これは訴訟において攻撃防御方法として相殺の意思表示をする相殺の抗弁についてのお話です。⇒ あくまで「訴訟の相殺」のことです。上記は口頭弁論期日において初めて訴訟上,相殺の意思表示を行う事例です。
訴訟外において,内容証明郵便をもって,相手方に相殺の意思表示を予め行っておいて,それを後日裁判になってから,同内容証明郵便などを書証として提出して,訴訟外において相殺の意思表示を行っていたことを主張,立証するところの「訴訟の相殺」のことではありません。念のため。 )

 

 

この場合,裁判所は,いずれの抗弁でも先に判断することが,可能でしょうか?

答えは,相殺の抗弁を,一番最後に判断しなければならい,となります。

 

その理由は,なんだとお考えになりますか?

答えは,相殺の抗弁が認められると,被告の自働債権の失権効が生じるからです。相殺の抗弁は,被告が自己の債権を失うという意味において,実質,敗訴に等しいからです。

 

それでは,裁判所に相殺の抗弁が認められた場合には,これに既判力が生じるでしょうか?

 

答えは,既判力が生じます。
既判力が認められた結果,被告は,後訴において自働債権の請求主張を裁判所に認めてもらえなくなります。まさに,これは,被告の自働債権が相殺の抗弁として認められたことにより,被告が自働債権を失ったことを意味します。

 

消滅時効や弁済の抗弁により,裁判所が請求棄却の判決をしてくれれば,被告は,自働債権を失わずに済んだものを,相殺の抗弁を先に判断されたがために,失わなくて済んだ自己の自働債権を失ったということになります。

 

そのため,このようなことにならないために,貸金返還請求訴訟の原告の貸金返還請求に対して,被告が抗弁として,弁済の抗弁と消滅時効の抗弁,さらには相殺の抗弁まで主張した場合,裁判所は,消滅時効の抗弁,弁済の抗弁のいずれも排斥した場合に初めて,被告の相殺の抗弁の主張を最後に判断するのです。(注 追記)

 

訴訟上の相殺の抗弁は,裁判所に判断されない限り,被告の答弁書,準備書面において,その主張をしただけで,被告は自働債権を失うことにはなりませんので,ご注意を! この点を,誤解されている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 

そして,被告は,相殺の抗弁を主張する場合,わざわざ「予備的」にと断った上で相殺の抗弁を主張しなくとも,ただ単に「相殺の抗弁」を主張するだけでよいのです。裁判所は,弁済の抗弁,消滅時効の抗弁を立証なしとしてこれらを排斥した場合,最後に被告の相殺の抗弁の成否を判断してくれるのです。

この点,「予備的」に主張しなければ,裁判所は,相殺の抗弁を最後に判断してくれないものと誤解している方がいらっしゃるのではないでしょうか。そんなことはなく,当然に,裁判所は,相殺の抗弁の成否を最後に判断してくれるのです。この点は,誤解の多いところかもしれません。(注 追記)

 

また,消滅時効の抗弁と,弁済の抗弁とでは,証拠関係,訴訟の経緯にもよりますが,裁判所は,通常,判断の容易な消滅時効の抗弁を先に判断し,これが認められれば,直ちに,請求棄却の判決を行うということが多いでしょう。弁済の抗弁まで,判断するに至らず,訴訟に決着がつくということです。

 

なお,上記の相殺の抗弁は,講学上,予備的相殺の抗弁と言われています。特別研修受講生の中には,「予備的相殺の抗弁」という言葉は思いつくものの,それ以上に上記のような相殺の抗弁の実質的判断については,これを理解していなかったという人も案外多く見受けられたのではないでしょうか。

 

また,講師弁護士の先生の中には講義中予備的相殺の抗弁について触れない先生も案外結構多くいらっしゃったのではないでしょうか。危険負担に関する債権者主義,債務者主義の概念説明についても,これを行わない講師弁護士の先生も案外結構多くいらっしゃったのではないでしょうか。民法534条は,強行規定ではなく,任意規定なのでありますから,是非とも,特約により契約当事者間で,債権者主義から債務主主義に変更したとも解釈できる契約条項については,「債務者主義」のコメントも行ってほしいとお考えになった特別研修受講生もいらっしゃったのではないでしょうか。

 

相殺の抗弁については,裁判所職員総合研修所監修,「民事訴訟法講義案」(三訂版)に掲載されています。ご参考までに。                       以  上

 

 

 

[注 追記]

 

訴訟において攻撃防御方法として相殺の意思表示をする相殺の抗弁においては,裁判所は,当事者の付した順位に拘束され,又は当事者が順位を付さない場合であっても,まず,原告の請求権の成立を確定し,相殺以外の抗弁(例えば,当事者主張の弁済の抗弁,消滅時効の抗弁)が成立しない場合に,初めてその判断に入ることが許されると解されています。[民事実務講義案Ⅰ(五訂版)裁判所職員総合研修所 監修 司法協会 p110参照]

 

繰り返しますが,このように言えるのは,あくまで訴訟において攻撃防御方法として相殺の意思表示をする場合です(訴訟の相殺)

 

訴訟において相殺の意思表示をし,その結果,原告の請求権が実体的に消滅していると主張する場合とでは異なるとされています。[民事実務講義案Ⅰ(五訂版)裁判所職員総合研修所 監修 司法協会 p110(注2)参照][民事訴訟法講義案(三訂版)裁判所職員総合研修所 監修 司法協会 p235参照]

 

「訴訟の相殺」と「訴訟の相殺」とでは,概念上区別しなければなりません。

 

 

要件事実の記載例(あくまで参考例です。念のため。自己責任でお願いします・・)

 

訴訟の相殺(訴訟において攻撃防御方法として相殺の意思表示をする場合)としての相殺の抗弁

 

1 被告は,原告に対し,平成 年 月 日,100万円を,返済期平成 年 月 日との約定で貸し付けた。

2 平成 年 月 日は到来した。[←民事実務講義案Ⅰp110では記載がない。]

3 被告は,原告に対し,平成 年 月 日の本件口頭弁論期日において,1の貸金債権と本訴請求債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をする。

 

[民事実務講義案Ⅰ(五訂版)裁判所職員総合研修所 監修 司法協会p110参照]

 

[上記2の「平成 年 月 日は到来した。」については,民事実務講義案Ⅰp110では記載がない。実務の答弁書・準備書面においては,当然のこととして記載しないことが事実上多いだけであって,しかし,要件事実としては必要なものです。
勿論,認定考査においても,記載する必要があります。
試験と実務ではこれを分けて考えるべき,といえる場面の一つです。]

 

[上記3の「平成 年 月 日の本件口頭弁論期日において」については,民事実務講義案Ⅰp110では記載されていない。しかし,認定考査対策上は,訴訟上の相殺,即ち,期日において意思表示を行ったことを明確にするため記載しておくべきでしょう。]

[認定司法書士への道 要件事実攻略法 第3版 蛭町 浩 著 p184~185参照]

 

 

 

 

訴訟において相殺の意思表示をし,その結果,原告の請求権が実体的に消滅していると主張する場合の抗弁 → 訴訟外でなされた相殺の意思表示

 

1 被告は,原告に対し,平成 年 月 日,100万円を,返済期平成 年 月 日との約定で貸し付けた。

2 平成 年 月 日は到来した。[←民事実務講義案Ⅰp111では記載がない。]

3 被告は,原告に対し,平成 年 月 日到達の書面で,1の貸金債権と本訴請求債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

 

[民事実務講義案Ⅰ(五訂版)裁判所職員総合研修所 監修 司法協会p111参照]

 

[上記2の「平成 年 月 日は到来した。」については,民事実務講義案Ⅰp111では記載がない。実務の答弁書・準備書面においては,当然のこととして記載しないことが事実上多いだけであって,しかし,要件事実としては必要なものです。
勿論,認定考査においても,記載する必要があります。
試験と実務ではこれを分けて考えるべき,といえる場面の一つです。]

 

 

 

 

 

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