短答・択一知識 独立行政委員会 憲法
投稿日:2017年6月25日 更新日:
独立行政委員会
独立行政委員会についての問題を作成しました。
独立行政委員会の合憲論については,様々な合憲論があります。試験に出そうな合憲論についての問題を作成してみました。
正解は,参考文献の下に記載してあります。
[ 問 題 ]
独立行政委員会が,日本国憲法第65条に違反しないとする合憲論について,以下のA説,B説の見解があるものとする。次のアからオまでの記述のうち,「この見解」がA説を指すものは,幾つあるか。
A説 憲法第65条は,すべての行政を内閣の統制(コントロール)の下に置かなければならないとするが,行政委員会は,何らかの意味において内閣の統制の下にあるから,行政委員会の合憲性が認められる。
B説 憲法第65条は,必ずしもすべての行政について行政権者たる内閣が指揮監督権をもつことを要求するものではないから,行政委員会の独立性(行政委員会が内閣の指揮監督下にないこと)を正面から承認した上で,行政委員会の合憲性を認めることができる。
ア この見解には,内閣に行政委員会の委員任命権や予算権があることを重視し,その限りで国会による内閣を通じての民主的コントロールが行政委員会に及んでなければならないとする基準をみたすから,行政委員会の合憲性を認めることができるとする見解がある。
イ この見解は,憲法第41条が「国会は・・・唯一の立法機関」として,同法第76条が「すべて司法権は・・・裁判所に属す」としているのに対して,同法第65条にはそのような限定はなく,単に「行政権は内閣に属す」と規定するのみであることを根拠とする。
ウ この見解に対しては,その主張する監督の程度で,行政委員会が内閣のコントロール下にあるとするのであれば,裁判所すらも内閣のコントロール下に立つことになってしまうとの批判が可能である。
エ この見解は,憲法第65条の趣旨は行政の民主的コントロールにあるのだから,行政委員会の行政事務が内閣の指揮監督権から独立していても,その分,国会自らが直接コントロールを行い「民主的統制」を及ぼして補完すれば,行政委員会の合憲性が認められるとする。
オ この見解は,三権分立を行政の専恣を抑制する原理として発展してきたものであると解し,行政委員会の設置は,この行政府に対する抑制設定という三権分立原理の目的と合致するから,その合憲性を認めることができるとする。
1 0個 2 1個 3 2個 4 3個 5 4個
( 参 考 )
日本国憲法
第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第六十五条 行政権は、内閣に属する。
第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
ここまでが問題,ここから先は解答
[ 解 説 ]
以下に,各肢の[この見解]の中に具体的にA説・B説を挿入したものを掲記します。
ア この見解(A説)には,内閣に行政委員会の委員任命権や予算権があることを重視し,その限りで国会による内閣を通じての民主的コントロールが行政委員会に及んでなければならないとする基準をみたすから,行政委員会の合憲性を認めることができるとする見解がある。
イ この見解(B説)は,憲法第41条が「国会は・・・唯一の立法機関」として,同法第76条が「すべて司法権は・・・裁判所に属す」としているのに対して,同法第65条にはそのような限定はなく,単に「行政権は内閣に属す」と規定するのみであることを根拠とする。
ウ この見解(A説)に対しては,その主張する監督の程度で,行政委員会が内閣のコントロール下にあるとするのであれば,裁判所すらも内閣のコントロール下に立つことになってしまうとの批判が可能である。
エ この見解(B説)は,憲法第65条の趣旨は行政の民主的コントロールにあるのだから,行政委員会の行政事務が内閣の指揮監督権から独立していても,その分,国会自らが直接コントロールを行い「民主的統制」を及ぼして補完すれば,行政委員会の合憲性が認められるとする。
オ この見解(B説)は,三権分立を行政の専恣を抑制する原理として発展してきたものであると解し,行政委員会の設置は,この行政府に対する抑制設定という三権分立原理の目的と合致するから,その合憲性を認めることができるとする。
[ 問題の所在 ] ( 判例憲法 第3版p329-330参照)
行政機関は,内閣の指揮監督の下に服するのを原則とします(憲法第65条,同法第72条,内閣法第6条参照)。
この原則は,国会に対して連帯して政治的責任を負う内閣による指揮監督権を行政機関各部に及ぼし,これに服させることによって,その民主的な責任を確保する意味を有します(民主的責任行政の原理)。
そこで,程度の差はあるものの行政事務を独立に行うことの認められる独立行政委員会が,行政機関は内閣の指揮監督の下に服するとの原則に反し,憲法に違反するのではないかが問題となります。
(なお,独立行政委員会としては,例えば人事院,国家公安委員会,公正取引委員会等があります。)
[ 具体的説明 ]
以下,具体的に説明していきます。
A説は,憲法65条がすべての行政について内閣のコントロールの下になければならないとするところ(例外を認めない),行政委員会も何らかの意味において内閣のコントロールの下にあるから,合憲であるとします。(独立性否定説)
そしてA説は,例えば内閣に行政委員会の委員任命権や予算権があることを重視し,これをもって行政委員会も内閣のコントロールの下にあるとして,行政委員会の合憲性を認めます。 [肢ア]
しかし,A説に対しては,その主張する監督の程度で,行政委員会が内閣のコントロール下にあるとするのであれば,裁判所すらも内閣のコントロール下に立つことになってしまうとの批判があります。[肢ウ]
これは司法権の独立に抵触するとの批判です。
これに対して,B説は,憲法第65条について,必ずしもすべての行政を内閣の指揮監督権・コントロール(統制)下に服させることまで要求していないと解した上,内閣から独立して行政事務を行う行政委員会の合憲性を認めます。
すなわち,上記の独立性否定説とは異なり,行政委員会の内閣からの独立性を正面から認め(行政委員会が内閣の指揮監督下にないことを正面から認め),独立性を前提とした上で例外として許容される行政委員会の正当化を行い,これによりその合憲性を認める見解がB説です。
→ ただし,「B説の諸説の大勢は,憲法第65条が存在する以上,内閣と完全に無関係な行政機関を設置することはできないと見ているようである(憲法の争点p229参照)。」と言われています。
B説からは,様々な論理による合憲論が主張されています。
以下に試験に出そうなB説からの合憲論をいくつか掲記します。
Ⅰ 憲法の文言をみると,憲法第41条(立法権配分条項)が「国会は・・・唯一の立法機関である。」と規定し,また憲法第76条(司法権配分条項)が「すべて司法権は・・・裁判所に属する。」と規定しているのに対して,行政権配分規定たる憲法第65条は単に「行政権は,内閣に属する。」と規定するのみで,「唯一」とか「すべて」とか,限定する字句を用いておらず,内閣の行政権限の独占を示唆する文言がない。[肢イ] (憲法の争点p229参照)
Ⅱ 憲法第65条の趣旨は行政の民主的コントロールにあるのだから,行政委員会の行政事務が内閣の指揮監督権から独立していても,その分国会自らが直接コントロールし民主的統制を及ぼして補完すれば行政委員会の合憲性が認められる。[肢エ](注解法律学全集3憲法Ⅲp189参照)
Ⅲ 三権分立の目的は,元来行政府に対する抑制設定にある。[肢オ]
→ 行政府の専恣を排除し,行政府に対する抑制を行うところに憲法第65条の趣旨があると解して,特に行政組織が法律によって定められる体制下においては,国会が内閣と独立の行政機関を設けたうえ,それに行政権の一部を帰属させることも可能であるとする。(日本国憲法論p485参照)
Ⅳ 異議の裁決など準司法的な事務や,警察や選挙管理など内閣の影響を排除した公正・中立性の求められる行政事務,科学技術,経済など技術的専門性の強い事務等,その職務の性質上,内閣の指揮監督の下に服させるのが適当でないものがあり,かかる行政については内閣から独立して行政委員会に権限を行使させても,憲法第65条に反しない。(判例憲法 第3版p330,日本国憲法論p485,注解法律学全集3憲法Ⅲp189参照)
→ A説の中の論者も,事務の性質上,職務権限の行使につき独立性を保障するだけの合理的根拠が存する限り,独立行政委員会の設置は,憲法の趣旨に反しないとして,職務権限の行使について独立性を保障するだけの合理的根拠の存在を要求しています。(注解法律学全集3憲法Ⅲp187参照)
なお,佐藤・日本国憲法論p485,486を,デフォルメして大ざっぱに言うと概ね以下のようになると思います。(注解法律学全集3憲法Ⅲp189は,佐藤(幸)説をA説とB説を総合する有力説C説として掲記しています。)
1 憲法第65条が「行政権は、内閣に属する。」としている以上,憲法自体に別段の定めがない限り,内閣から全くの無関係な行政機関を設置することはできない。
2 独立行政委員会の歴史的展開過程に徴し,制度自体の合理性が認められれば,その限りで職務権限行使の独立を認めうる。
3 内閣の行政委員会に対する指揮監督権の不十分なところは,国会自らが民主的コントロールを行政委員会に及ぼしてこれを補完する。
1,2,3を総合して,最終的には制度自体の合理性の存否が,合憲性の最後の決め手となる。(日本国憲法論p486,憲法の争点p228-331参照)
[参考文献]
日本国憲法 橋本公亘 著 有斐閣
[新版] 憲法講義 下 小林直樹 著 東京大学出版会
日本国憲法論 佐藤幸治 著 成文堂
憲法Ⅱ 第5版 野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 著 有斐閣
注解法律学全集3憲法Ⅲ樋口陽一・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂 著 青林書院
判例憲法 第3版 大石 眞・大沢秀介 著 有斐閣
憲法の争点 大石眞・石川健治 [編] 有斐閣
憲法判例百選Ⅱ[第4版] 芦部信喜・高橋和之・長谷部恭男 編 有斐閣
憲法学読本 第2版 安西文雄 巻美矢紀 宍戸常寿 著 有斐閣
など
正解 3 [A説ア,ウ →ア,ウの2個 B説イ,エ,オ ]
学説及び判例あるいは判決事例の解読・理解・説明には,非常に微妙な点が多数現出します。
説明の過程において,どうしても私見となる部分が出てきます。
従いまして,以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。 以 上
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執筆者:略して鬼トラ
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