国民審査制の法的性質 憲法
投稿日:2017年7月25日 更新日:
最高裁判所裁判官の国民審査制の法的性質
(司法試験・予備試験・司法書士試験 論点)
今回の司法試験,司法書士試験 ブログは,国民審査制の法的性質についての択一問題を作成しました。
今回の問題は判例の見解を知っていれば,あとは文章の文脈の前後関係でキーワードの連続性,論理性を追っていくと,何とか正解に達することができるのではないでしょうか。
正解は参考文献の下に記載してあります。
[ 問 題 ]
次の甲と乙の会話の中の[ア]から[オ]までの[ ]内に下記AからEまでの文章の中から適切なものを選択して入れると,最高裁判所裁判官の国民審査制の法的性質に関する対話が完成する。[ア]から[オ]までの[ ]内に入れるべきものの組み合わせとして最も適切なものは,後記1から5までのうちどれか。
学生甲 憲法第79条第3項が,国民審査の法的効果として当該裁判官が「罷免される」ことを定めていること,また,国民審査以前に有効に任命され,裁判官はその職務に完全に就いており,裁判官に対する罷免決定は将来に向かってのみ効力を有すること,これらを考えれば,[ ア ]ことは,明らかである。
この説によれば,特に罷免すべきものと思う裁判官にだけ×印をつけ,それ以外の裁判官については何も記さずに投票させ,×印のないものを「罷免を可としない投票」(この用語は正確でない、「積極的に罷免する意思を有する者でない」という消極的のものであつて、「罷免しないことを可とする」という積極的の意味を持つものではない)の数に算える国民審査の投票方法について,合憲であるとの結論を導くことができる。
学生乙 甲君は判例と同旨の見解を採っている。
しかし,甲君の説は適格性審査が制度の核心と捉えるが,[ イ ]のだから,かかる国民審査は妥当性に欠けるのではないか。
学生甲 しかし,最高裁判所裁判官としてなしたことのみが判断資料になるのではなく,最高裁判所裁判官になる前の経歴,所業,業績などを資料として,罷免すべきか否かを国民が審査することができる。
ところで,憲法第79条第2項によれば,「最高裁判所の裁判官の任命は,・・・・審査に付し・・」とある。この文言を根拠に,[ ウ ]とする説を乙君は採るのか。
学生乙 いいえ。かかる説によれば,[ エ ]から採らない。
そこで私は,国民審査制度の法的性質について以下の説を採る。
法的効果の面からリコール(解職制度)であるということを承認した上で,さらに内閣の任命行為に対する事後審査としての性格を併有する。
すなわち,[ オ ]とする説を採る。
学生甲 しかし,乙君のいう「事後審査」という概念は不明瞭である。また,乙君の説によれば「事後審査」に任命行為を完結させるという意味が含まれておらず,国民審査制度の法的性質に関する限り,私の説と径庭がないように思われる。
(文章群)
A 国民審査は任命行為に向けられたものであるから,国民審査制度は「任命」行為を完成(完結),確定させる公務員選定作用である
B 任命後初の審査は任命行為に対する事後審査,10年を経過する毎に行われる審査は個々の裁判官の過去の職務遂行の業績から判断する解職としての意味を有する
C 国民審査制度は裁判官の適格性を国民が審査し,不適格者を罷免する国民解職(リコール)の制度である
D 任命から国民審査までの裁判官の地位を説明できない難点がある
E 任命後間もない時期に行われる国民審査においては,最高裁判所裁判官としての実績に乏しく,判断資料が不足している
1 アにA ウにB 2 イにD エにE 3 アにC エにD
4 ウにB オにC 5 イにE オにA
(参考)
憲法
第七十九条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
ここまでが問題,ここから先は解答
[解 答]
学生甲 憲法第79条第3項が,国民審査の法的効果として当該裁判官が「罷免される」ことを定めていること,また,国民審査以前に有効に任命され,裁判官はその職務に完全に就いており,裁判官に対する罷免決定は将来に向かってのみ効力を有すること,これらを考えれば,ア 国民審査制度は裁判官の適格性を国民が審査し,不適格者を罷免する国民解職(リコール)の制度であることは,明らかである。(ア・C)(解職制度説・リコール説)(宮澤・全訂日本国憲法p642,憲法の争点p266参照)
この説によれば,特に罷免すべきものと思う裁判官にだけ×印をつけ,それ以外の裁判官については何も記さずに投票させ,×印のないものを「罷免を可としない投票」(この用語は正確でない、「積極的に罷免する意思を有する者でない」という消極的のものであつて、「罷免しないことを可とする」という積極的の意味を持つものではない)の数に算える国民審査の投票方法について,合憲であるとの結論を導くことができる。
→最高裁昭和27年2月20日大法廷判決(昭和24年(オ)第332号最高裁判所裁判官国民審査の効力に関する異議事件)参照
→佐藤(幸)・日本国憲法論p400,長尾・日本国憲法[第3版]p428参照
学生乙 甲君は判例と同旨の見解を採っている。
しかし,甲君の説は適格性審査が制度の核心と捉えるが,イ 任命後間もない時期に行われる国民審査においては,最高裁判所裁判官としての実績に乏しく,判断資料が不足しているのだから,かかる国民審査は妥当性に欠けるのではないか。(イ・E)(憲法判例百選Ⅱ[第4版]p397参照)
学生甲 しかし,最高裁判所裁判官としてなしたことのみが判断資料になるのではなく,最高裁判所裁判官になる前の経歴,所業,業績などを資料として,罷免すべきか否かを国民が審査することができる。(宮澤・全訂日本国憲法p643,渋谷・憲法p668-669参照)
ところで,憲法第79条第2項によれば,「最高裁判所の裁判官の任命は,・・・・審査に付し・・」とある。この文言を根拠に,ウ 国民審査は任命行為に向けられたものであるから,国民審査制度は「任命」行為を完成(完結),確定させる公務員選定作用であるとする説を乙君は採るのか。(ウ・A)(任命確定説)(憲法判例百選Ⅱ[第4版]p397参照)
学生乙 いいえ。かかる説によれば,エ 任命から国民審査までの裁判官の地位を説明できない難点があるから採らない。(エ・D)(野中ほか憲法Ⅱp251,憲法判例百選Ⅱ[第4版]p397)
そこで私は,国民審査制度の法的性質について以下の説を採る。
法的効果の面からリコール(解職制度)であるということを承認した上で,さらに内閣の任命行為に対する事後審査としての性格を併有する。(憲法の争点p266参照,憲法の基本判例p192参照)
すなわち,オ 任命後初の審査は任命行為に対する事後審査,10年を経過する毎に行われる審査は個々の裁判官の過去の職務遂行の業績から判断する解職としての意味を有するとする説を採る。(オ・B)(二面的性格説・併有説)(憲法の争点p266,憲法の基本判例p192参照)
学生甲 しかし,乙君のいう「事後審査」という概念は不明瞭である。また,乙君の説によれば「事後審査」に任命行為を完結させるという意味が含まれておらず,国民審査制度の法的性質に関する限り,私の説と径庭がないように思われる。(憲法判例百選Ⅱ[第4版]p397,憲法の基本判例p192参照)
[参考文献]
日本国憲法 橋本公亘 著 有斐閣
全訂日本国憲法 宮澤俊義 著 芦部信喜 補訂 日本評論社
演習 憲法 新版 芦部信喜 著 有斐閣
日本国憲法論 佐藤幸治 著 成文堂
日本国憲法[第3版][全訂第4版] 長尾一紘 著 世界思想社
憲法Ⅱ 第5版 野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 著 有斐閣
憲法 第3版 渋谷秀樹 著 有斐閣
注釈日本国憲法 下巻 樋口陽一・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂 著 青林書院
憲法の基本判例[第2版]樋口陽一・野中俊彦 編 有斐閣
憲法判例百選Ⅱ[第4版] 芦部信喜・高橋和之・長谷部恭男 編 有斐閣
判例プラクティス憲法 増補版 憲法判例研究会 編 信山社
[ 正解 3 ]
学説及び判例あるいは判決事例の解読・理解・説明には,非常に微妙な点が多数現出します。
従いまして,以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。
以 上
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執筆者:略して鬼トラ
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