処分証書の文書の成立の真正立証における当事者尋問
投稿日:2017年4月8日 更新日:
売買契約書は,処分証書です。
処分証書は,極めて重要な証拠価値を有します。
なぜなら,意思表示その他の法律行為が記載された処分証書は,その文書の成立の真正が認められると,特段の事情がない限り,当該処分証書記載の法律行為が認定されるからです。
処分証書は,訴訟の勝敗を決する上で,極めて重要な証拠なのです。
ですから,代理人は,処分証書の署名,押印が否認されると,一生懸命になって文書の成立の真正の立証に努めます。
例えば,売買代金請求訴訟において,複数の売買契約書の文書の成立の真正が争われたとしましょう。どこが争われているかが問題です。
そもそも,自分は署名していない,第三者による偽造だといった場合,二段の推定の一段目の推定が働かないので,一段目の推定を働かせるため,売買契約書における署名が,被告自身の署名であることを立証しなければなりません。
署名の同一性が立証されなければ,民訴法228条4項の適用以前の問題となります。
ただ,署名が被告によるものではなくても,押印された印影が被告の印章と同一であることを被告が認めれば,特段の事情なき限り,一段目の推定が働き,そして二段目の推定が働く結果,売買契約書の文書の成立の真正が推定されます。
ところが,印章と印影の同一性まで被告に否認された場合はどうでしょう。
しかも,売買契約書の印影から推察される印章が,文房具店で売られている三文判で印鑑登録もしない印章であって,さらに,売買契約書の印影の全てが契約書ごとに異なっている場合です。
この場合,被告の印章と売買契約書の印影の同一性を立証するよりも,売買契約書にある署名が被告による署名であることに重点を置いて,立証活動を行う原告代理人がいてもおかしくありません。
原告代理人は,被告の印章と印影の同一性を立証するよりも,署名が被告によるものであることに重点を置いて立証活動し,民訴法228条4項の適用により売買契約書の文書の成立の真正の推定を獲得しようとするのです。
そこで,改めて次のような事例を検討してみましょう。
例えば,複数ある売買契約書のうち一部は自分が署名押印したものだが,その他の売買契約書は,誰かほかの第三者が,自分の名前を勝手に使って署名押印したもの,つまり,偽造文書である旨証言するのです。本当は,全部の契約書に署名押印したのに,全部の偽造を主張すると,嘘に聞こえるので,一部だけ本当の署名押印だと認め,残りは偽造だと否認するのです。(ただし,すべての売買契約書の印影が各々微妙に異なるものとする。)
真実の中に嘘を織り交ぜるわけです。
真実の中に紛れた嘘は,発見しにくい。
虚実相まみれると,嘘も真実に聞こえてくる,ということです。
一部の売買契約書の文書の成立の真正を認めても,全部の売買契約書の成立の文書の成立の真正を認めるよりも,原告から請求される売買代金の請求金額は,全部を認めるよりも安くて済みます。ですから,このようなことを行うのです。
真実の中に嘘を織り交ぜるわけです。
しかしながら,複数の事実の中に嘘を織り交ぜると,どれが本当で,どれが嘘なのか,当の被告本人自身が,わからなくなります。
つまり,被告は,複数の売買契約書のどれに署名していないと虚構の事実設定をし,どれに署名したままの,つまり真実の事実を維持しようとしたのか,わからなくなるのです。(すべての売買契約書の印影が各々微妙に異なるため,印影を手掛かりとしても自己に有利な正確な供述証言ができない。)
ここで,被告が,署名の真正につきバラバラな証言をしてしまうと,証言の一貫性を失い,被告の証言の信用性に一気に疑いが生じます。
こんなとき,被告側の代理人が,複数の売買契約書の書証にそれぞれ自分の尋問のための手控えとして,大きく○とか,×とか書証に書いておいたことが,被告に有利に作用することがあります。
○は,確かに被告が署名した。×は,被告が署名していない。第三者による偽造だ。このようにして,被告代理人が尋問で真正な文書と不真正な文書とを,取り違えて尋問しないように,書証に自ら○×を鉛筆書きしていることがよくあるのです。
その鉛筆書きの書証を被告代理人が,悪意なく,善意でそのまま被告に示して,尋問してしまうことがあるのです。
被告代理人が「甲第○号証の平成○年○月○日付け売買契約書を示します。」といって,その○,×の書いてある売買契約書を次々に,被告に示して,「この売買契約書,あなたが署名したものですか?これは,・・・,それではこれは・・・」といって矢継ぎ早に次々に質問してしまうことがあるのです。
答えが,書証たる売買契約書に書いてあるわけですから,被告だって間違えようがありません。
しかも,矢継ぎ早に質問されて,それに間をおかずに躊躇なく,被告は淀みなく答えるわけですから,いかにも証言の信用性が増すわけです。
代理人の中には,うっかりこんなことをしてしまう者もありえるのです。
だから,原告代理人は,相手方被告代理人が書証を被告に示す時には,事案によっては証言台まで歩いて行って,一緒にその提示されている書証の内容を確認しなければなりません。
もし,被告代理人の提示する書証に○×が書いてあったら,裁判所に異議を述べることになります。
そして,被告代理人が提示する甲号証の売買契約書の原本は,そもそも原告代理人がもっているのですから,被告代理人にかわって,原告代理人が証言台まで歩いて行って,被告にそれらを示せばよいのです。
特別研修受講生に,ここまで教示してくださった講師弁護士の先生がいらっしゃったとしたら,とても親切です。
それでは,この被告代理人は,偽証教唆,幇助になるのでしょうか?
なりません。
当事者尋問には,宣誓を行っても偽証罪が適用されないからです。
それでは,訴訟当事者以外の第三者の証人にこれと同じことを行ったらどうなるでしょうか?
被告と内通している第三者を悪意でなく,善意で証人申請し裁判所に採用されて,証人尋問した場合の話です。複数の売買契約書のうち,被告が文書の成立の真正を認めた売買契約書の契約締結の現場に立ち会ったとされる第三者などを証人尋問した場合の話です。
一見すると,偽証罪の教唆,幇助になると思えるかもしれません。
宣誓した証人には偽証罪が適用されるからです。
しかし,ここからが問題です。
じっくり考えてみてください。
被告訴訟代理人も,一生懸命,訴訟の準備をしてくるわけです。
訴訟代理人が自分の手持ちの書証に,○や×をつけるなんて日常茶飯事です。
それをいちいち咎められていたら,仕事ができません。
安易に構成要件該当性を認めて処罰していては,緊張の連続で訴訟代理人の身がもちません。
ここで,思い出してください。
教唆,幇助は,故意犯ですか? 過失犯ですか?
そう教唆,幇助は,故意犯です。(通説)
故意犯処罰の原則を思い出してください。
罪刑法定主義を思い出してください。
過失による教唆,幇助は,罪刑法定主義上処罰されません。(通説)
そうです,上記の代理人は,手持ち証拠の○,×の鉛筆書きを消しゴムで消し忘れて,
被告に提示しただけなのです。
○×の書証を見た証人が偽証しても,過失による教唆,幇助として被告代理人は罪刑法定主義上処罰されません。
被告代理人が書証を示して質問するときは,事案によっては原告代理人が,一挙手一投足の労を惜しむことなく,証言台まで歩いて行って,書証の内容をその目で確認すべきでしょう。
もし,被告代理人の提示する書証に○×が書いてあったら,裁判所に異議を述べ,
被告代理人にかわって,原告代理人が甲号証の売買契約書の原本を被告に示してあげればよいのです。 以 上
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執筆者:略して鬼トラ
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