司法書士試験ブログ 国政調査権の単純知識・択一問題(憲法)司法試験・司法書士試験・行政書士試験
投稿日:2017年9月20日 更新日:
目次
[ はじめに ]
国政調査権の択一問題は,いつ出題されてもおかしくありません。単純知識問題として出題される可能性があります。
今回の択一問題は,国政調査権と司法権との関係についての肢を中心に作成しました。
個数問題と言うことで,多少,手古摺ることがあるかもしれません。
しかし,是非,正解したい問題と言えます。
正解は,参考文献の下に記載してあります。
[ 問 題 ]
各議院の国政調査権に関する次のAからEまでの記述のうち,正しいものは幾つあるか。
A 議院が司法に関する予算審議や立法制定審議のために必要であると判断しても,司法権の独立の観点からは,裁判一般の運営調査について,国政調査権を行使することができない。
B 議院の国政調査権は,特定個人の有罪性の探索を唯一の目的として行使することができる。
C 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律に基づき出頭した証人は,自己の思想・良心それ自体や,思想・良心に直接かかわる尋問に対しても,証言を拒むことが許されない。
D 後続の同種事件を審理する裁判官の自由な心証形成を担保維持するため,裁判内容の批判的調査による裁判官への事実上の影響力を排除すべきであり,裁判の事後審査は判決自体のみによって行われなければならないと解すれば,確定判決の事実認定及び刑の量定につきこれらを批判をするため,議院は国政調査権を行使することができる。
E 議院の国政調査権においては,住居侵入,捜索,押収,逮捕の刑事手続上の強制力の行使が認められていない。
1 1個 2 2個 3 3個 4 4個 5 5個
ここまでが問題,ここから先は解答
[ 解 答 ]
(芦部・憲法と議会政p161~,長尾・日本国憲法全訂第4版p215~,野中ほか・憲法Ⅱp147~参照)
問題肢A 議院が司法に関する予算審議や立法制定審議のために必要であると判断しても,司法権の独立の観点からは,裁判一般の運営調査について,国政調査権を行使することができない。
誤り。
正解は次のとおり。
議院が司法に関する予算審議,立法制定のための審議に必要と判断するときは,裁判一般の運営調査について,国政調査権を行使することができる。
(勿論,裁判官の裁判活動に対して事実上の重大な影響を及ぼすような調査でないことを前提とする。)
問題肢B 議院の国政調査権は,特定個人の有罪性の探索を唯一の目的として行使することができる。
誤り。
正解は次のとおり。
議院の国政調査権は,特定個人の有罪性の探索を唯一の目的として行使することができない。
→そもそも特定個人の有罪性の探索を国政調査権行使の目的とすることはできない。
問題肢C 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律に基づき出頭した証人は,自己の思想・良心それ自体や,思想・良心に直接かかわる尋問に対しても,証言を拒むことが許されない。
誤り。
正解は次のとおり。
議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律に基づき出頭した証人は,自己の思想・良心それ自体や,思想・良心に直接かかわる尋問に対して,思想・良心の自由を理由として証言を拒むことができる。
(市川・基本講義 憲法p295参照)
問題肢D 後続の同種事件を審理する裁判官の自由な心証形成を担保維持するため,裁判内容の批判的調査による裁判官への事実上の影響力を排除すべきであり,裁判の事後審査は判決自体のみによって行われなければならないと解すれば,確定判決の事実認定及び刑の量定につきこれらを批判をするため,議院は国政調査権を行使することができる。
誤り。
このDの肢は,全体的に考察すると論理的に齟齬を生じています。
同種事件の裁判官の自由な心証形成を担保するためには,仮令(たとえ),判決確定後においても,裁判内容の批判目的のために国政調査権を行使することはできないと考えるのが論理的です。とくに「裁判の事後審査は判決自体のみによって行われなければならない」と指摘している点に注意が必要です。この両者相俟って,Dの肢は誤りと判断できます。
したがって,正解は次のとおりです。
後続の同種事件を審理する裁判官の自由な心証形成を担保維持するため,裁判内容の批判的調査による裁判官への事実上の影響力を排除すべきであり,裁判の事後審査は判決自体のみによって行われなければならないと解すれば,確定判決の事実認定及び刑の量定につきこれらを批判をするため,議院は国政調査権を行使することができない。
より簡明に記載すると,
後続の同種事件についての裁判官の自由な心証形成を担保維持するため,確定した判決内容についても,その事実認定及び刑の量定につきこれらを批判するため,議院は国政調査権を行使することができない。
となります。
裁判内容の批判的調査の可否については,以下の学説があります。
(芦部・憲法と議会政p161~,野中ほか・憲法Ⅱp147~参照)
Ⅰ
|
議院は,いつでも裁判内容を自由に調査・批判できるとする説(絶対許容説) | 学説Ⅰに対しては,司法権の独立の意義を没却するとの批判があります。 |
Ⅱ | 判決確定後に限り,判決ないしはそれまでの訴訟手続の当否を調査できるとする説(判決確定後許容説) | 学説Ⅱに対しては,後続の類似事件を審理する裁判官の法的確信の自由な形成(自由な心証形成)に対する事実上の影響力を看過しているとの批判があります。
すなわち,類似事件の審理を担当する他の裁判官に萎縮的効果を与え,裁判官の職権行使の独立を害するとの指摘があります。 |
Ⅲ | 判決確定の前後を問わず,裁判の批判的調査をすることができないとする説(絶対禁止説) | 学説Ⅲは,裁判内容の批判的調査は,権力分立の原則からして,そもそも国政調査権の範囲,限界を超えるものであって違法であり,一切許されないとします。 |
学説Ⅰ及びⅡの両説には,そもそも裁判内容の批判的調査が適法にできるとする点で問題であるとの指摘,批判があります。
本設問の肢Dは,学説Ⅲの[絶対禁止説]について記載したものです。
判決確定の前後を問わず,裁判の批判的調査をすることができないとする説(絶対禁止説)
one more 知識(通説)
現に係属中の裁判事件につき,その裁判手続,訴訟指揮権の行使についてこれを批判し,司法部に指揮勧告する目的のため,議院は国政調査権を行使することができない。
と解されています(新・コンメンタール憲法 木下智史・只野雅人[編]p517参照)。
問題肢E 議院の国政調査権においては,住居侵入,捜索,押収,逮捕の刑事手続上の強制力の行使が認められていない。
正しい。
正解は次のとおり。
議院の国政調査権においては,住居侵入,捜索,押収,逮捕の刑事手続上の強制力の行使が認められていない。
憲法第62条[議院の国政調査権]
両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
[参考文献]
日本国憲法 橋本公亘 著 有斐閣
憲法と議会政 芦部信喜 著 東京大学出版会
憲法第6版 芦部信喜 著 高橋和之補訂 岩波書店
日本国憲法論 佐藤幸治 著 成文堂
日本国憲法[第3版][全訂第4版] 長尾一紘 著 世界思想社
憲法Ⅱ 第5版 野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 著 有斐閣
基本講義 憲法 市川正人 著 新世社
新・コンメンタール憲法 木下智史・只野雅人[編] 日本評論社
など
正解 1 正しい肢はEの1個
以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。 以 上
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執筆者:略して鬼トラ
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