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( 司法書士試験 ) 相続放棄・遺産分割と登記《 一 考 》

投稿日:2017年4月29日 更新日:

相続放棄・遺産分割と登記・・・《 一 考 》

 

[問 題 提 起]

 

相続不動産に対する遺産分割または相続放棄により法定相続分と異なる権利を取得した相続人は,その取得した持分を第三者に対して対抗するのに,登記の具備を要するか否かについて判例は概ね以下のように考えています。

 

(遺産分割においては登記必要)
「不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法177条の適用があり、分割により(法定)相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、(法定)相続分と異なる自己の権利の取得を対抗することができない。」

 

(相続放棄においては登記不要)
「相続人の相続放棄により(放棄前の法定)相続分と異なる権利を取得した相続人には、民法177条の適用がなく、その旨の登記を経ることなく、相続放棄後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、(放棄前の法定)相続分と異なる自己の権利の取得を対抗することができる。」

 

要するに判例は,「遺産分割においては登記を必要とするが,相続放棄においては登記を不要とする」立場をとっています。

 

以下の事例を前提にして,
上記の「遺産分割においては登記を必要とするが,相続放棄においては登記を不要とする」判例の立場を私なりに説明してみたいと思います。

 

 

[事例1 遺産分割]
夫X(被相続人)が死亡し,その妻A及びX,Aの子である長男B,次男CがXの土地を相続した。
遺産分割により妻Aと長男Bが,それぞれ2分の1ずつ土地を取得した。

 

それにもかかわらず遺産分割後において,Cの分割前法定相続分の土地持分をCがYに対して譲渡した。

 

 

[事例2 相続放棄]
夫X(被相続人)が死亡し,その妻A及びX,Aの子である長男B,次男CがXの土地を相続した。
Cは相続放棄をした。

 

それにもかかわらず相続放棄後において,Cの放棄前法定相続分の土地持分をCがYに対して譲渡した。

 

 

[ 説 明 ]

1 遡及効の制限規定の有無

 

相続放棄の登記を不要とする根拠として,遺産分割には分割の遡及効を制限する規定があるのに対し,相続放棄には放棄の遡及効を制限する規定がないことが挙げられます。

 

相続放棄は,放棄の遡及効を制限する規定がないので,遡及効を徹底します。その結果,相続人は,相続開始当初から相続人ではなかったことになります(民法939条)。
これにより放棄相続人は無権利者となり,その者の持分登記は無権利の登記であるとの結論に至ります。

 

そして,かかる無権利の登記には公信力がない以上,この登記を信頼した第三者は放棄相続人から持分を取得しないことになります。

 

これに対して遺産分割には,分割の遡及効を制限する規定があることから,持分の移転を観念できます(民法909条但書)。そのため対抗要件の問題とします。

 

遺産分割は、相続人が共同相続により一旦取得した土地の権利について,相続人間で新たな持分譲受による持分変更を生じさせたのと実質上異ならないと考えられます。遺産分割後の第三者に対する関係においては分割後に新たな物権変動があったと同視します。

 

そのため,不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法177条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないと考えられるのです。

 

これに対して,相続放棄だけでなく遺産分割の場合にも遡及効を貫徹する≪無権利の法理≫の理論を採用する説があります。この説は,以下のように考えます。

 

遺産分割は相続開始時に遡ってその効力を生ずるので,遺産分割したことにより,相続開始時からCは土地の持分を有していないかったことになる(民法909条本文)。

 

無権利の法理を採用する説は,かかるCは無権利者でありその無権利者Cから持分を譲
り受けたYも無権利者になるとします。

 

無権利者は,民法177条の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に
該当しません。そのため,A,Bと第三者Yは対抗関係に立たないことになります。

 

すなわち,対抗問題を生じない。A,Bはそれぞれ法定相続分と異なる持分取得につき登記なくして,Yに対して対抗できるということになります。
こうして,遺産分割においても登記は不要であると主張するのです。

 

(この説に依った場合,無権利者Cからの譲受人Yの保護は,民法94条2項類推等によって保護されることが一応考えられます。)

 

 

2 相続放棄の家庭裁判所での調査

 

相続放棄については家庭裁判所においてその有無を調査できます。
これにより債権者等利害関係人,第三者の取引の安全を一定程度図れます。そのため相続放棄の場合には登記を不要とするのです。

 

これを具体的に言うと,相続放棄については家庭裁判所に対して,相続放棄の申述の有無について照会を行えます。必要であれば照会により確認した事件番号等で相続放棄申述受理証明書の交付申請を行い,これを取得します。

 

これにより債権者等利害関係人は相続放棄の有無について一応の確認ができます(但しオールマイティーではない。)。

 

このようにして第三者の取引の安全を図られるのだから,相続放棄の場合には登記は不要であるとするのです。

 

一方,遺産分割は,分割後も登記の放置により,分割前の状態である共同相続の外観が呈されることがあるため,債権者等利害関係人,第三者の取引の安全を害します。そのため遺産分割には権利の変動を目に見える形にする必要があり登記の具備を要求するのです。

 

 

3 相続放棄の熟慮期間と法定単純承認制度

 

また,相続放棄に登記を不要とする理由として,相続放棄は限定された期間である熟慮期間内において行わなければならないことが挙げられます(民法915条)。

 

これにより相続開始から相続放棄までの間に第三者が出現する可能性が少ないということが考えられます。第三者の取引の安全を害する危険性が減少しているのです。そのため相続放棄の場合には取引の安全の機能を有する標識としての登記までは不要とするのです。

 

また,法定単純承認制度があり,土地を処分した相続人はその後の放棄が認められず単純承認したものとみなされます(民法921条1項1号)。同人から土地を買い受けた第三者は,少なくとも法定単純承認時に共同相続状態のままであれば,放棄相続人の放棄前相続分についてその持分を取得できることになると思われます。

 

このように債権者等利害関係人,第三者の取引の安全を一定程度図れるため,相続放棄の場合には登記を不要としているのだと考えられます。

 

 

4 最終的な権利帰属の確定の有無

 

また,遺産分割は共同相続人間において,その権利取得を最終的に確定するものです。
遺産分割により最終的な権利帰属が確定した以上,遺産分割による持分移転登記をするのに支障はありません。第三者の取引安全の見地からは,持分移転登記の懈怠は非難に値すると考えられるのです。

 

そのため判例は持分移転登記を要求することにしたのだと考えられます。
登記できるのに登記しなかったことを登記懈怠と捉えて,妻A,長男BとYを対抗関係で処
理するのです。

 

これに対して,遺産分割前の共同相続状態では,事情が異なります。
共同相続において相続放棄をする者がいた場合,相続放棄者以外の残りの相続人が相続放棄の段階で自身の持分の移転登記(共同相続登記)を行うことを懈怠したとしても,これについては非難に値しないと考えられます。

 

次男Cが相続放棄をしても,妻A,長男Bは未だ遺産分割を完了させていない場合には,その段階でわざわざ共同相続の登記まで要求するのは酷であると考えられます。

 

共同相続登記は,最終的な権利確定前の過渡的登記であり,登記費用等を考えるとこれを要
求するのは酷であるとする価値判断があります。

 

共同相続の登記を行った上で,遺産分割による持分移転登記を再度行うのは,相続人にとっていわば二重の負担となると見るのです。

 

遺産分割後に相続登記をストレートに行うほうが費用負担やその他の諸々のことを考えれば簡便です。

 

そのため相続放棄後・遺産分割前の遺産共有については,登記をできるのに登記をしなかったという対抗問題の土俵にのせないのです。

 

このような事例も相続放棄について登記を要しない事例として考えることは有用ではないかと思われます。

 

(これは結局,「遺産分割前においては共同相続登記を行わなくとも,相続人は自己の法定相続分を登記なくして第三者に対抗できる。」という「共同相続と登記」という論点と実質的には同じことになります。)

 

 

5 遺産分割前から既に取得していた相続人本来の法定相続分についての注意

 

なお,ここで注意しなければならなのは次のことです。
判例は本来の法定相続分(遺産分割前から既に取得していた相続人本来の法定相続分)について,A,Bは登記なくしてその持分を第三者Yに対抗できることを当然の前提としています。

 

遺産「分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができない(昭和46年1月26日 最高裁判所第三小法廷 判決)。」と判例が判示しているのは,分割により相続分と異なる権利を取得した相続人の本来の法定相続分を超えるところのまさに「分割により新たに取得した持分」について,登記の対抗要件具備を要求しているのです(登記技術的な問題はさておくとして・・)。

 

以上から遺産分割において判例は,本来の法定相続分について,A,Bは登記なくしてその持分を第三者Yに対抗できることは当然の前提としています。本来の法定相続分については,無権利の法理と同様な処理の仕方をしています。
(判例は相続放棄についても,遡及効を徹底することによって無権利の法理と同様の処理の仕方をしています。)

 

なお,最高裁の判決等を見ると「無権利の登記」という言い方がなされているのに気づきます。無権利の法理と同様の思考方式が「無権利の登記」といった文言に具現化されているものと思われます。

 

また「無権利の登記」に続けて「登記に公信力なき・・」という言い方も判例には見受けられます。

 

「権利外観法理」と「公信の原則(公信力)」の違いについては,権利を失う者に帰責性を要求するかどうかの違いがあると言われることがあります。

 

「権利外観法理」は,権利を失う者(本人)に帰責性を要求します。
一方「公信の原則(公信力)」は,権利を失う者(本人)に帰責性を要求しません。

 

なお,我が国においては登記に公信の原則を採用していません。

 

ところで,判例は,相続分の指定を受けた相続人が,相続不動産についてその指定相続分の取得を第三者に対抗するのに,対抗要件としての登記を不要としています(最判平成5年7月19日 最高裁判所第二小法廷 判決)。

 

これについても注意を要します。

 

「遺産分割と登記」「相続放棄と登記」の論点については,時間にもし余裕があれば判例百選や最高裁判決を判例検索でお調べになって,少しお読みになられた方がよろしいかもしれません。
民法の推論択一にひょっとしたら今後出題されるかもしれません(なんとなくです・・・汗)。

 

以上の記述の正誤につきましては,ご自身の基本書,テキスト等で是非ご検証ご確認ください。                                 以  上

 

 

[参考文献] 民法判例百選 Ⅲ 親族・相続  水野紀子・大村敦志 編 有斐閣
遺産分割のための相続分算定方法 梶村太一・貴島慶四郎 著 青林書院
民法判例集 親族・相続 内田貴・水野紀子・大村敦志・道垣内弘人 著 有斐閣
親族法相続法講義案 裁判所職員総合研修所 監修 司法協会
など

 

 

 

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